2006年04月02日

筋線維組成と競技パフォーマンス

960c269b.jpg私たちの運動能力はトレーニングや栄養摂取等によって獲得される後天的なものだけでなく、人間が元来有する先天的な資質によって左右されるともいわれている。

特にトップアスリートは人間の能力を最大限に高め限界に近い状態でプレーするため、そのアスリートが有する先天的資質が競技パフォーマンスを決定する重要なポイントになることが多いと考えられる。

しかしながら、運動能力に関する資質は、ある単一の遺伝子や遺伝的要素で決定されるものではなく様々な遺伝子が複雑に関与しているとされていることから、アスリートにとって優れた先天的資質を有することは必要条件であるが絶対条件であるとはいい切れず、先天的資質が競技パフォーマンスに影響を及ぼす度合いは従来考えられていたよりも低いことが明らかになりつつある。これらのことから、高い競技パフォーマンスを獲得するためには優れた先天的資質を有するばかりでなく、その資質を活かすよう適切なトレーニングプログラムを構築することが必要不可欠になるといえよう。

ところで、その運動能力に関係する代表的な先天的資質の一つに筋線維組成が挙げられる。

人間の骨格筋線維はその特性により数種類のタイプに分類されるが、大きく速筋線維(タイプU線維)と遅筋線維(タイプT線維)の2種類に分類することが出来る。

そして、タイプU線維はさらにタイプUA線維とタイプUB線維に分けられるが、これらの分類は筋線維の収縮特性を反映しているといわれ、タイプUB線維が最も速筋型で、タイプT線維が遅筋型、タイプUA線維がその中間型として位置づけられている。

遅筋線維は収縮速度が遅く、クレアチンリン酸の貯蔵量などは低いが酸化系酵素活性やミオグロビン含有量、毛細血管密度が高く、疲労しにくいという特性を持っており、一方の速筋線維は収縮速度が速く解糖系酵素活性などは高いが、酸化系酵素活性は低く疲労しやすいという特性を持っている。

タイプU線維のサブタイプのうち、タイプUA線維の解糖系や酸化系の酵素活性はタイプT線維とタイプUB線維の中間を示し、収縮特性、酵素活性共に両タイプの中間型の特性を有するとされている。

これらの特性から、遅筋線維は有気的なエネルギー発揮能力に優れ、長時間収縮する能力が高く疲労耐性が高いこと、一方の、速筋線維は無気的なエネルギー発揮能力に優れ、爆発的な収縮能力が高いということが出来る。

一般の健常者では、遅筋線維と速筋線維の割合はほぼ50%:50%であるとされているが、陸上競技短距離選手では速筋線維の割合が70%以上を占め、長距離選手は遅筋線維の割合が65%以上を占めることが報告されている。

また、中距離選手ではその中間の値が得られたとされるが、800mの選手は速筋線維の割合がやや高く、1,500mの選手は遅筋線維の割合がやや高い傾向にあったと報告されている。

これらの結果から陸上競技のようなエネルギー供給能力の依存度が高い競技において高いパフォーマンスを発揮するためには、その競技種目に適した筋線維組成を有することが必要条件ではないかと考えられている。

また、球技系アスリートにおいては、どのような球技種目においても遅筋線維と速筋線維の割合はほぼ同じであることが報告されており、陸上競技に比べて技術的要素の高い球技種目においては持久的能力、瞬発的能力共に必要であると考えられることから、両タイプの筋線維が必要になるのかもしれないことが示唆されている。

このように、筋線維組成は私たちがスポーツを行なう上で、重要な要素の一つになると考えられ、スポーツ種目の適正評価や方向付け、さらにはスポーツタレントの発掘といった側面において、個人の筋線維組成を把握することは非常に意義ある行為だと考えられている。

筋線維組成を把握する方法としてはこれまでにいくつかの方法があると報告されているが、
直接的に筋線維を取り出し調べる方法である「ニードルバイオプシー法」は局所麻酔と小切開が必要であり誰もが手軽に行なえるものではない。

そこで、間接的に筋線維組成を推定する方法が検討されているが、その一つに筋電位伝導速度による推定法が挙げられる。

この方法は、筋の表面に電極を装着し、筋収縮により記録された筋電図パターンと電極間の距離から伝導速度を求めるという方法であるが、この伝導速度と筋線維組成の間には密接な関係があることが明らかにされており、伝導速度の速い筋ほどタイプU線維の比率が高いことから、間接的に筋線維組成を推定することが可能となる。

また、最近になり注目を浴びている方法として、MRIによる推定法がある。

この方法は、MRI独特のパラメータである緩和時間を求め、間接的に筋線維組成を推定するという方法であり、さらに最近ではMRS(磁気共鳴分光法)を用いて速筋線維と遅筋線維の相対的なクレアチンリン酸含有量の違いを検出することにより筋線維組成の推定が可能であるとされている。

これらの間接的推定法は非観血的であるが、測定に際しては高価な設備や高度な技術を有する測定者を必要とするためあまり一般的ではないと考えられている。

いずれにしても、筋線維組成を把握し適切スポーツ種目の設定、ならびに適切なトレーニングを行なうことが競技パフォーマンスを高める上で重要な要素になるといえよう。
posted by NOGU at 15:20| Comment(0) | TrackBack(0) | スポーツ医・科学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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